自分には、何もない、と思ってた。
ショッピングセンターもない、流行の食事を出すレストランもない、ファーストフード店もない、コンビニもほとんどない。
自分は、ダメなむら・まちだと思ってた。
でも、あるとき気づいたんだ。こんなにもたくさんの素敵な宝物があることを。
季節ごとに色を変え、実りをもたらしてくれる山。心を元気づけてくれる木。きれいな水がきらきら流れて、鮭が登る川。たくさんの魚たちを与えてくれ、そして心をからっぽにしてくれる青い海。
近くの田畑には、稲が実り、野菜たちが元気に育っている。すぐそこのお米・野菜を食べられる幸せ。食卓には、おばあちゃんの手作り味噌と漬物。
ここで昔から作られている、他にはない野菜を作り続けてくれているおじいちゃん。やっぱりあれがないと煮物が美味しく出来ないんだ。
だから、小さいままがいい、と思った。ないものを欲しがるのはやめよう。ここにあるものを大事にしていこう。
そんなイタリアの小さなむら・まちが、「スローシティ」と名乗って活動を始めています。作家の島村菜津さんに、彼らの挑戦の物語を話して頂きます。
島村菜津(作家)
ノンフィクション作家。
1963年、長崎県生まれ、福岡県育ち。東京藝術大学美術学部芸術学科でイタリア美術史を専攻、卒業後にイタリアへ留学する。現地でスローフードに出会 い、数年間にわたる取材をもとにした著書『スローフードな人生!~イタリアの食卓から始まる』を帰国後に刊行。同書は日本におけるスローフード運動の先駆 けとなった。1999年、『エクソシストとの対話』で21世紀国際ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『スローフードな日本!』『スローシティ』 『生きる場所のつくりかた』ほか多数。