開催報告一覧

B-9 「シンリツ・エオリパック・アイヌ『イオマンテ』を語る」

報告:山本 敬介

B-09-1 B-09-2

 「イオマンテ」とは、イ(それ)オマン(行く)テ(させる)の意味で、キムンカムイ(ヒグマ)の魂を神々の世界に送る事とその儀式を指す。日本語では「熊送り」や「熊祭」と訳される事が多いが、地域によってはシマフクロウやシャチでも行われるという。今回は実際に「イオマンテ」の経験がある、旭川川村カ子ト記念館館長のシンリツ エオリパック アイヌ(川村兼一さん)に、1935年に旭川で行われた「イオマンテ」の記録映像を見ながら、「イオマンテ」の詳細なディテールや、アイヌの世界観を伺うことが出来た。
 聞き手としてお迎えしたのが奈良県在住で、絵本「イオマンテ-めぐるいのちの物語-」の原作者寮美千子さんだ。絵本「イオマンテ」は2005年に発行された。帯広の十勝場所と環境ラボラトリーが企画して、画は宮沢賢治シリーズで人気の小林敏也氏、その原作者が寮美千子さんだ。しかし版元の倒産によって現在は幻の絵本となっている。この日は、まず最初に絵本「イオマンテ」を映像と寮美千子さんの朗読で見ていただき、おおまかなイメージをつかんでもらった。そして次に実際の映像を見ながら、川村さんの話を聞いていく。春の猟で得た仔熊を人間の母親がお乳を与えたりしながら家族同様に大切に育てる。成長したその愛しい「生命」に、踊りや食べ物で出来る限りのもてなしをして、あちらの世界に「送る」。送られたヒグマは「人間の世界ではこんなにも良くしてもらった」と考えて、また生まれ変わったら、おいしいお肉や毛皮を持って人間の世界に来てくださる。それが人間とキムンカムイ(山の神)=ヒグマの関係性である。
 人間は食べるという行為を通して、自然や大地の恵みに生かされている。アイヌの伝統儀式「イオマンテ」は、それを忘れ大地を汚す現代社会に強烈に事実を突きつける。まさにスローフードが考えるその根源的な問いが「イオマンテ」にはあり、北海道で暮らす我々がこの感性を次世代につないでいく責任があると感じた。


プログラム詳細

B-9 シンリツ エオリパック アイヌ「イオマンテ」を語る